不動産の引き渡し猶予とは?特約を付けるリスクやトラブル
住宅の買い替えでは、売主が買主に対して「引き渡し猶予」を依頼するケースがあります。
引き渡し猶予とは、実際に引き渡す日を買主が売買代金を支払ってから数日後にしてもらうことです。
引き渡し猶予はどのようなケースで利用され、どのようなリスクがあるのでしょうか。
そこで今回の記事では「引き渡し猶予」について、特約の詳細や引き渡し猶予特約を付けるケースなどについて詳しく解説します。
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目次
引き渡し猶予とは?特約の仕組みについて
- 引き渡し猶予
- 引き渡し猶予とは、実際に買主に物件を引き渡す日を代金支払い日から遅らせてもらうことです。
不動産の引渡は、引渡日と同日とすることが原則です。
引渡日は、買主が売主に対して売買代金を支払い、所有権の移転登記を行う日になります。
所有権は、引渡日に買主に移転するため、引渡日以降は当然に買主が利用できることが通常の取引です。
通常の取引では、売主は引渡日の前日までに引っ越して家を空き家の状態にしておきます。
しかしながら、場合によっては売主が引渡日の前日までに引っ越せないケースもあります。
このようなとき、例外的に売主が引っ越すまでの数日間を買主に待ってもらうのが引き渡し猶予なのです。
引き渡し猶予でも、引渡日以降の所有権は通常の取引と同じく買主へ移転します。
所有権は移転しているものの、売主が権限のない状態でそのまま占有しているという状況が引き渡し猶予です。
引き渡し猶予は、あくまでも「引っ越しするまでの数日間、泊めさせてください」という「お願い」となります。
引き渡し猶予を行う場合、売買契約書に以下のような特約を盛り込みます。
引き渡し猶予特約の例
買主は、売主に対して、本物件の引き渡しを売買代金支払い日の翌日から7日間猶予するものとする。
また、猶予期間中、売主は本物件の管理責任を負い、猶予期間中に天災地変等の不可抗力によって本物件の全部又は一部が滅失もしくは毀損したときは、その損失は売主負担とする。
なお、固定資産税等の負担は上記引渡日をもって区分し、その前日までの分を売主負担、引き渡し以降の分を買主負担とする。
引き渡し猶予期間中は、所有者と入居者が異なるため、あたかも賃貸借のような関係になります。
しかしながら、引き渡し猶予では、あえて賃料は発生させず、賃貸借契約も締結しないことが一般的です。
理由としては、無償で貸すことでその占有は「使用貸借」と呼ばれるものとなり、借主(この場合は売主)の権利を弱くすることができるからです。
仮に賃料を発生させた形でしっかりした賃貸借契約を締結してしまうと、借地借家法が適用されて借主の権利が強くなってしまいます。
借地借家法が適用されると、貸主から借主を退去させることが困難となってしまうため、あえて賃貸借契約は結ばず、賃料も発生させないようにしているのです。
引き渡し猶予は、あくまでも売主から貸主に対する「お願い」に該当します。
「無償で数日間泊まらせてもらう」という依頼であり、いざとなれば買主は売主を簡単に退去させることができるという力関係になっているのです。
ここまで引き渡し猶予の概要について見てきましたが、次に不動産の住み替えについてお伝えします。
不動産の住み替えについて
不動産の住み替えには、「買い先行」と「売り先行」の2種類があります。
買い先行
買い先行とは、購入を先に行い、売却を後で行うという住み替え方法です。
例えば、売り物件の住宅ローンが完済している人は、買い先行を利用できます。
買い先行では、売却よりも先に物件を購入できることから、売主は引渡前に引っ越すことができます。
そのため、買い先行を選択できる人は、引き渡し猶予を利用する必要がありません。
買い先行の人は、既に新居に引っ越した状態で売却物件の引渡日を迎えることができます。
売り先行
売り先行とは、売却を先に行い、購入を後で行うという住み替え方法です。
例えば、売り物件の住宅ローンが残っており、売買代金で売り物件の住宅ローンを完済しなければいけない人は、売り先行を利用します。
売り先行では、売却時点で購入物件を買えていないわけですから、引き渡し猶予が生じる可能性はあります。
ただし、売り先行であっても、売主が一旦賃貸物件や実家などの仮住まいに引っ越せば、引き渡し猶予は不要です。
仮住まいに住んだ場合、引っ越しを2回行う必要が出てきますが、売主が経済的に余裕があれば、売り先行でも引き渡し猶予を使わないことはできます。
よって、売り先行だからといって、必ずしも常に引き渡し猶予が行われるわけではないのです。
マンションの住み替えについては、以下の記事で詳しく解説しています。
次に引き渡し猶予の目安となる期間について見ていきましょう。
引き渡し猶予の目安期間
引き渡し猶予は賃貸借ではなく、あくまでもお願いによって数日間、無償で泊めてもらうことを指します。
お願いで長期間泊めさせてもらうことは主旨にそぐわないため、引き渡し猶予は数日間であることが望ましいとされています。
引き渡し猶予の目安としては、3〜10日程度です。
あくまでも引っ越しまでの調整期間であることから、概ね一週間前後が常識の範囲とされています。
次に引き渡し猶予特約を付けるケースについて見ていきましょう。
引き渡し猶予特約を付けるケース
引き渡し猶予特約を付けるケースとしては、売主が住み替えローンを利用するケースが挙げられます。
- 住み替えローン
- 住み替えローンとは、売却物件で返済しきれなかったローン残債を購入物件の住宅ローンに上乗せして借りることができるローンのことです。
住み替えローンでは、購入物件で借りるローンを使って売却物件で返済しきれない残債を返済します。
住み替えローンの融資実行日は、購入物件の引渡日であることから、住み替えローンを利用する場合は購入物件の引渡日と売却物件の引渡日を同日に設定しなければならないのです。
売主が住み替えローンを利用する場合、売主は翌日には購入物件に引っ越すことができます。
売却物件の引渡時点において売主の引っ越し先が既に決まっており、買主も1日だけ待てば引き渡しを受けられる状況にあります。
たった1日のためだけに売主がわざわざ2回も引っ越しをしなければならないのは、気の毒に思ってくれる買主も多いです。
そこで、売主が買い替え先の購入物件が決まっている場合には、買主が引き渡し猶予を許容してくれることもあります。
逆にいえば、売主の購入物件の購入時期が決まっておらず、いつ退去するかわからないようなケースでは、買主が引き渡し猶予を認めないことが一般的です。
住み替えローンについては、以下の記事で詳しく解説しています。
次に引き渡し猶予特約を付けた際の売却の流れについて見ていきましょう。
引き渡し猶予特約を付けた際の売却の流れ
引き渡し猶予を利用するケースは、住み替えで買い替え特約を付けるケースが多いです。
- 買い替え特約
- 買い替え特約とは、住み替えを行う人が、期限までに売却できなかった場合に購入物件の売買契約を解除できるという特約になります。
ここでは、買い替え特約を使いながら引き渡し猶予特約を付ける際の流れを示します。
買い替え特約を使いながら引き渡し猶予特約を付ける際の流れ
- 「売却物件」の査定を依頼する
- 「売却物件」で不動産会社と媒介契約を締結する
- 「売却物件」の売却活動を開始する
- 「購入物件」を探す
- 「購入物件」で「買い替え特約付き売買契約書」を締結する
- 「売却物件」で「引き渡し猶予特約付き売買契約書」を締結する
- 「売却物件」と「購入物件」の引渡を同日で行う
- 期限内に「売却物件」から「購入物件」に引っ越
売却物件と購入物件の引渡を同日で行うため、購入物件の売買契約書に「買い替え特約」を付けることがポイントです。
また、売却物件の買主に購入物件が既に決まっていることを知ってもらう必要があることから、購入物件の売買契約は売却物件の売買契約より先に締結しておく必要があります。
ここまで引き渡し猶予特約を付けた際の売却の流れについて見てきましたが、次に引き渡し猶予のリスクやトラブル例について見ていきましょう。
引き渡し猶予のリスクやトラブル
引き渡し猶予は、売主が引っ越しを1回で済ますことができ、売主側にとって都合の良い特約です。
その分、買主にしわ寄せが行き、買主が大きなリスクを伴います。
買主側のリスクは、以下の様な点です
買主側のリスク
- 無権限者の売主に居座られてしまう可能性がある
引き渡し猶予で最も大きなリスクは、売主が約束を破ってそのまま居座ってしまうケースです。
場合によっては、売主を退去させるために訴訟まで発展するトラブルも考えられます。
売主は借主ではなく、そもそも占有する権利を何も有しない無権限者です。
「引き渡し猶予特約」という契約はあるものの、その契約を完全に無視して居座られてしまえば、買主はいつまでも物件を引き受けられないことになります。
引き渡し猶予の前にリースバックの検討を
- リースバック
- リースバックとは、家をリースバック会社に売却し、その後、リースバック会社から売った家を借りることでそのまま今の家に住み続けられる売却方法のことです。
リースバックは、売却後、家賃を払うことでそのまま今の家に住み続けられる点がメリットになります。
一方で、売却後に家賃の支払いが発生する点がデメリットです。
リースバックは引き渡し猶予とは異なります。
引き渡し猶予は、「お願い」によってしばらく住まわせてもらう方法であるのに対し、リースバックは「賃貸借契約」によって住み続けられる方法です。
リースバックでは売買契約と同時に賃貸借契約を締結し、売主は無権限者ではなく、れっきとした借主です。
リースバックの賃貸借契約は、例えば2年間のような通常の賃貸借契約と同じになり、引き渡し猶予のように7日前後ではありません。
賃貸契約期間は2年間の定期借家契約が多いですが、借主(売主)が退去したいタイミングで契約を解除できるタイプのものが一般的です。
引き渡し猶予は、あくまでも買主に対する「お願い」であることから、買主を安心させるために既に購入物件が決まっていることが求められます。
逆にいうと、購入物件が決まっていない状態では引き渡し猶予特約を応諾してくれる買主はほとんどおらず、実質的に使えない方法となります。
そのため、購入物件が決まっていない状態で「売り先行」を行うには、一旦仮住まいに住む2回の引っ越しを余儀なくされるケースが多いです。
しかしながら、リースバックを利用すれば、元自宅が仮住まいのような形となるため、購入物件が決まったタイミングで引っ越すことができます。
つまり、リースバックを使えば、引っ越しの回数が1回で済むということです。
購入物件が決定するのが、数か月先のようなケースであれば、リースバックの利用を検討しても良いかもしれません。
リースバックについては、以下の記事で詳しく解説しています。
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引き渡し猶予でよくある質問
引き渡し猶予でよくある質問を紹介します。
Q1.引き渡し猶予特約があると売却しづらくなることはありますか?
引き渡し猶予特約をつけた物件は、売却しにくくなります。
理由としては、買主には一切のメリットがないからです。
買主はお金を払ったにもかかわらず、売主に約束を破られ、いつまでも物件を引き渡してもらえないというリスクを負います。
引き渡し猶予特約は、買主の善意を前提にした契約といっても過言ではなく、買主に拒否されて当然の「お願い」であることは知っておく必要があります。
Q2.引き渡し猶予はどのようなケースで利用することが多いですか?
引き渡し猶予は、売却物件の売買契約時点で、既に購入物件の売買契約が成立しているようなケースで使われることが多いです。
買主に対して、いつどの物件に引っ越すかを確実に伝えることができ、安心感を与えられるような状態であれば、引き渡し猶予を受け入れてもらえる可能性はあります。
よくあるケースは、売却物件と購入物件の引渡を同日に行う場合です。
翌日には引っ越せるような状況であれば、3日くらい猶予しても構わないと考える買主は一定数存在すると思われます。
Q3.引き渡し猶予で売主側のリスクはありますか?
売主側のリスクは、引き渡し猶予を受け入れてもらえる可能性が低いということです。
言い換えると、売却しにくくなるという点がリスクになります。
買主からすれば、売主が仮住まいに引っ越せば引き渡し猶予を使わずに済むだけの話です。
わざわざ引き渡し猶予を付けて引っ越しを1回で済まそうというのは、売主だけに都合の良い話になります。
引き渡し猶予は、買主の同意を得にくくなるのがデメリットとなります。
Q4.引き渡し猶予で買主側のリスクはありますか?
買主側のリスクは、売主に約束を破られて居座られてしまうという点です。
お金を払ったにもかかわらず、いつまでも自分で利用できない状態に陥る可能性もあります。
引き渡し猶予は、買主にとって一切メリットのない契約です。
親切心があだとなってしまう可能性があります。
引き渡し猶予を依頼された場合には、売主の購入予定物件の売買契約書を確認しておくことが重要です。
引っ越しの予定日や、売主の職業や勤務先などもしっかり確認しておく必要があります。
引っ越しが確実に行われる蓋然性が極めて高いと判断できる場合に限り、引き渡し猶予を応諾することが適切です。
まとめ
引き渡し猶予について解説してきました。
引き渡し猶予は、売却物件と購入物件の引渡日を同日に行うケース等、売主が確実に引っ越す蓋然性が高い取引でないと利用が難しい特約といえます。
売り先行の買い替えでは、引っ越しを1回で済ませる方法としてリースバックを利用するといったことが考えられます。
通常の売却と条件を比較し、リースバックでも問題ないと判断できる場合には、リースバックも検討してみてください。
URILABOの運営者
スター・マイカ株式会社
“作る”から“活かす”社会の実現をめざし、リノベーション中古マンションを販売する会社です。オーナーチェンジ物件の買い取りを得意とし、常時3,000戸以上保有しています。不動産のプロとして「納得のいく不動産売却」のための情報を発信しています。
スター・マイカ株式会社 宅地建物取引業者免許 国土交通大臣(03)第8237号
当社は、東証プライム上場のスター・マイカ・ホールディングス株式会社のグループ企業です
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